溺愛の価値、初恋の値段
「ロメオさん。それは盗撮……。雅が怒る……」
「あとで、ちゃんと本人に見せて許可をもらうよ」
そんなことをしようと思うロメオさんは、勇気があるのか無謀なだけなのか。
雅を激怒させることだけは、まちがいない。
「ロメオさんと飛鷹くん、同じ大学だったんですね?」
「そうだけど……僕と空也は、同窓生というよりは兄弟みたいなものなんだ」
「兄弟……つまり、親友よりも仲が良いってこと?」
「まあ、そんなところかな?」
ここ一週間、間近で見てきた二人の関係は、本当に遠慮がないものだった。
ロメオさんの言うように、友人というより家族に近いのかもしれない。
「昨夜のミーティングに出ていた人たちも、もしかして同じ大学ですか?」
「うん。空也が大学の友人たちと立ち上げた会社だからね。初期メンバーはほとんど同窓生。だから、海音ちゃんのこともみんな知ってる」
「わたしのことも……?」
意味がわからず首を傾げるわたしに、ロメオさんがにやりと笑う。
「空也は、頭もいいし見た目もいいし、外面もいいから、大学入学したての頃はけっこうモテてたんだ。でも、実態を知られてからは、まったくモテなくなったんだよね」
「実態……?」
「スマートフォンやPC、タブレット、ありとあらゆるデバイスの壁紙に、かわいい女の子の画像を設定していたんだよ。最初は、彼女の写真だろうって噂されていたんだけど……まったく会いにも来ないし、電話している様子もない。実は、二次元の彼女なんじゃないかって話になってね」
「二次元……」
飛鷹くんにそういう趣味があるとは、知らなかった。
ちょっとびっくりしたけれど、アニメ好きな人はそんなに珍しくもないのではないか。
そんなことを思ったわたしに、ロメオさんは苦笑いした。
「さらには、CGで自分好みの女性を創って、育ててるんじゃないかって話になってね。空也はやけに、AIの研究に熱心だったから。いくらイケメンでも、さすがに妄想の彼女がいる男は遠慮したいでしょ? 噂が広まって、まったく女の子から声を掛けられなくなったんだよ。本人は、言い寄って来る女の子たちを蹴散らす面倒がなくなって、これ幸いと喜んでいたみたいだけれど……」
ロメオさんが、声を潜めて尋ねた。
「ねえ、海音ちゃん。見てみたい? 空也の彼女」
見たことがバレたら、確実に飛鷹くんに怒られる。
でも、気になる。
あちらの国のセクシーな女性たちに目もくれないほど惚れ込んでいたらしい二次元の彼女とは、どんなものなのかとても気になる。
「……はい。見たいです」
好奇心に抗えず、小声で返事をした。
「これだよ」
ロメオさんは嬉々としてスマートフォオンを取り出し、ずいっとわたしの目の前に差し出した。
そこに映し出されていたのは、華やかなピンク色の着物を着た女の子の後ろ姿だった。
凝った形に結ばれた金の帯。
椿の絵柄。
はにかんだ笑みを浮かべ、
肩越しに振り返った幼さの残る顔は……。
「こ、れ……」
毎朝、よく似た顔を鏡で見ている。
ロメオさんは、にっこり笑って彼女の名前を教えてくれた。
「空也は、彼女を『アマネ』って呼んでたよ」