溺愛の価値、初恋の値段
雅は飛鷹くんと二人で何か話し合ったりしていたのだろうか。
「あの時は……こんなに時間が必要だとは思わなかったんだよ」
飛鷹くんが手を止めた隙に、雅がすかさずお肉をさらう。
「そう簡単に、どうにかなるわけないでしょ! 海音。どうしてここにいるのか、ちゃんと理解している?」
「ええと……」
ロクに契約書を読んでいないわたしの代わりに、飛鷹くんが説明した。
「海音には、この部屋に住んで、掃除や洗濯、料理をしてもらう代わりに、報酬を支払うことにした。一日につき……」
飛鷹くんが口にした金額は、これまで働いていたのとは比べ物にならない額だ。
ちょっとしたアルバイト程度だと思っていたわたしは、慌てた。
「え、ちょっと待って、そんなには……」
「くれると言うんだから、貰っておきなさい。無職なんだから、お金が必要でしょう? 海音」
雅にぴしゃりと言われ、わたしは首を竦めた。
「………ハイ」
「それで……海音をタダ働きさせないのはいいとして、まさか外出禁止になんかしてないわよね?」
雅の鋭い指摘に、飛鷹くんは気まずそうな表情をした。
「それは、マスコミ避けのためだ。もう、そんなに露出する予定はないし、落ち着いたら自由にさせる」
「ふうん? マスコミねぇ……ところで、海音。期間については聞いているの? 一か月?」
そんなものがあったとしても、契約書を読んでいないわたしにはわからない。
とりあえず、飛鷹くんに言われたとおりに伝えるしかなかった。
「えっと……とりあえず、飛鷹くんのビジネスが基盤に乗るまで?」
「はぁっ!? そんなの何年先になるかわからないじゃないのっ!」
「そ、そんなにかかるの?」
長くてもせいぜい二、三か月だろうと思っていたわたしは、急に不安になった。
きちんと報酬が貰えるとしても、できれば無職の期間はなるべく短くしたい。
「そうだね。最短でも半年から一年くらいは、かかるかも。今回の事業拡大は、誰かさんのワガママで急に決めたせいで、なんにも準備ができてな……うっ」
説明しかけたロメオさんが再び悶絶し、涙目で飛鷹くんを睨む。
「空也! もうちょっと僕に感謝してもいいんじゃない? こんなに協力してあげているのに……」
「おまえは、面白がっているだけだろ」
「面白がってなんかいないよ。僕は『真実の愛』を追究しているだけ……」
「どうせ、色んな国の女性を試してみたいだけでしょ?」
雅の指摘に、ロメオさんは微笑んだ。
「でも、探す必要も、試す必要も、なくなったよ。雅と出会ったから」