溺愛の価値、初恋の値段
「な……何を言ってるのかわからないんだけど」
「うん。愛は、言葉では伝えきれないものだからね」
「…………」
雅は、白い頬を赤く染めて、開きっぱなしだった口に最後のお肉を放り込んだ。
鍋を恨めしそうに見つめる飛鷹くんは、最後の具となった一枚の白菜を箸で摘まみ上げる。
具材はすべて食べきってしまい、あとはシメにうどんを投入するだけ。
飛鷹くんの「入れろ」という目配せを受けて、わたしは用意していたうどんを鍋へ入れた。
沈黙を埋めるのは、ぐつぐつと鍋のだし汁が煮える音のみ。
普段は、あんなに饒舌なロメオさんも口を閉ざしている。
「雅、うどん食べる? 卵も入れる? 雑炊のほうがよかった?」
沈黙が気まずくて、おそらくまだ食べ足りないはずの雅に尋ねる。
「いらない……ごちそうさま。片づけるね」
雅は、顔を赤くしたまま、わたしと目も合わせずに立ち上がった。
「い、いいよ、雅。あとで、まとめて洗うから。お茶飲む? 温かいお茶が好きだよね? あ、それとも、もう少しビール飲む?」
「ありがとう海音。でも、明日早いから、わたし帰るね」
鞄を手に、さっさと玄関へ向かう。
「雅っ! もう遅いから、タクシー……タクシー呼ぶから、待ってっ!」
なんだか様子のおかしい雅が心配になり、慌てて後を追う。
「大丈夫、まだそんなに遅くないし……」
素早く靴を履いて玄関のドアに雅が手をかけた時、わたしの背後からぬっと突き出した腕が、ドアを押さえた。
「僕が送るよ」
「ちょっ……ちょっとっ!」
ドアを開けられなくなった雅が憤怒の表情で、ロメオさんを振り返る。
「行こうか、雅。海音ちゃん、ごめんね? 後片付けお願いできるかな?」
「は、はい」
にっこり笑い、もがく雅の腕をがっちり掴んだまま、ロメオさんはにやりと笑ってわたしの耳へ囁いた。
「今夜は、覚悟しておいたほうがいいよ? 海音ちゃん」