溺愛の価値、初恋の値段
「飛鷹くん……」
ダイニングテーブルでは、飛鷹くんが呑気にうどんをすすっていた。
「羽柴さんのことは、ロメオに任せていいと思う。そんなことより、うどんがのびるよ? 海音」
ロメオさんの発言の意味を問い質したかったけれど、お鍋の中で増殖しているうどんを示され、後回しにすることに。
飛鷹くんが器に取り分けてくれたうどんを受け取った。
わたしがどうにか一人前と言えるほどのうどんを平らげる間に、飛鷹くんは三人前のうどんを平らげた。
◆
結局、後片付けが終わっても、ロメオさんは戻って来なかった。
飛鷹くんは、誰かと電話で話していたが、良くない知らせだったのか、通話を終えると大きな溜息を吐いた。
「海音。今夜、ロメオは自分の部屋に泊まるって」
「え? 自分の部屋って……ここじゃないの?」
「この下。十四階がロメオの部屋。あいつのリクエストが多すぎたせいで、改装に時間が掛かったんだ。昨日ようやく終わった。ここから移った後も、時々、一緒に食事すると思うから、必要な時は言う」
「……それは」
さきほどロメオさんに言われた言葉と合わせて、ひとつの結論に至った。
「……今夜から、飛鷹くんと二人きりってこと?」
「そうなるね」
(そうなるねって……そうなるねってっ!)
最初ここへ連れて来られた時は、状況がよくわかっていなかったし、ロメオさんがいるなら大丈夫だろうと思っていた。
でも、正真正銘二人きりとなると、話は別だ。
マスコミ避けに同居しているはずが、マスコミの前に餌をぶら下げている……。
「ひ、飛鷹くん、やっぱりそれはちょっとマズイと思うんだけど? 大学時代はともかくとして、いまはイケメンIT実業家なんだから、婚約者とか、恋人とか、愛人とかいるなら、誤解されるようなことはしないほうがいいと……」
飛鷹くんは目を見開き、ついでぎゅっと眉根を寄せた。
「だから、その恥ずかしい呼び名やめてって言ったよね?」
「あ……ご、ゴメンナサイ」
「あのさ、海音は俺のことなんだと思ってるの? 婚約者とか恋人とか愛人とかって、なに? そういう相手がいるのに、別の女を部屋に連れ込むなんて、クズだよね?」
久しぶりにブチキレる飛鷹くんを見て、わたしは固まった。
「わざわざ説明するまでもないと思っていたけど……こっち来て!」