溺愛の価値、初恋の値段
腕を掴まれ、引きずられていった先は、飛鷹くんの部屋だ。
掃除するために何度も入っているけれど、部屋の主と一緒に入るのは初めてで、ドキドキする。
ブラックとシルバーを基調としたインテリアでまとめられた部屋は、夜になると近未来風で無機質な雰囲気が一層強く感じられて……。
(いかにもイケメンIT……)
「海音、いまなんて言おうとした?」
「……ご、ゴメンナサイ」
「座って」
「は、ハイ……」
間近に見下ろしてくる飛鷹くんの迫力に気圧され、ベッドに腰掛ける。
「婚約者がどうのって、海音はたぶんこの記事を見たんだと思うけど……」
飛鷹くんは、デスクの上に置いていたタブレットをわたしの目の前に突き付ける。
そこには、わたしが読んだのと似たような記事が映し出されていた。
某不動産会社社長令嬢。元同級生。付き合っていたという噂。
そして、婚約・結婚間近とも――。
「コイツ――葉月の父親は、俺の父親が会長を務める飛鷹グループ傘下の不動産会社社長だ。子どもの頃から、お互い顔だけは知っている間柄だった。偶然、高校で同じクラスになって……今回、仕事の関係で連絡を取りたい高校の同級生がいたんで、同窓会の幹事をしてるコイツに繋ぎを付けてもらったんだ。そのお礼に、一緒に食事へ行った時に写真を撮られただけ」
「そ、そうなんだ……」
飛鷹くんは、説明に信憑性を持たせようとしたのだろう。
画面に、お相手の『葉月』さんの写真を映し出した。
「いまとは、ちょっと雰囲気変わってるけど……コレが、葉月」
教室らしき場所で撮られたそれには、数名の制服姿の男女が写っていた。
その中でも、ひときわ目立つ美人。
上品な笑みを浮かべるその人を、わたしは知っていた。
仲良く、飛鷹くんと腕を組んで校門から出てきた「彼女」だ。
「この人……『葉月』さんて、飛鷹くんの彼女……だよね?」