溺愛の価値、初恋の値段
「なん、で……?」
唖然とする飛鷹くんに、まさか学校まで会いに行ったとは言えず、わたしは慌てて言いつくろった。
「あ、えっと、二人でいるところを見かけたことがあって……仲良く腕を組んでて、とってもお似合いだったから……」
頭もよくて、お金持ちで……大人になった彼女は、もっときれいになっているはず。あの頃よりも……。
「いまなら、もっとお似合いかもね。元カノに再会して、また付き合い始めることもよくあるって言うし……」
「お似合いって……なに? 葉月とは、付き合ってなんかいない。昔も、いまも」
飛鷹くんは、これまで聞いたことのないような低い声できっぱり否定した。
「で、でも……」
「海音こそ、元サヤに収まりたいと思わないの?」
「思わないよ。だって……」
元サヤもなにも、元カレという存在がいないのだから、無理な話だと笑い飛ばそうとしたわたしの視界が、ぐるりと回った。
「どうして?」
冷たい、そのくせ暗い炎が燻る瞳で見つめられ、息が止まる。
「……好きな男でも、いるの?」
目の前にいる。
そう答えられたらいいのに、言えない。
ようやく取り戻しかけている関係を壊したくなかった。
こうして普通に会話して、一緒に食事をし、時々出かけられるだけで、十分だ。
あの時強制終了されなければ続くはずだった猶予期間を、もう少し過ごしたいだけ。
それ以上を望む権利も資格も、わたしにはない。
なのに……。
「ひ、飛鷹く……んっ」
首筋に、鎖骨に、柔らかな唇を押し当てられると焼き印を押されたように、肌が熱を帯びる。
「海音は、よく喋るくせに……大事なことは言わないよね」
中途半端に引き下ろされたジーンズのせいで、自由にならない足を撫でられて、声が漏れる。
重ねられた唇で、唇を割られ、息も声も奪われる。
「ねえ、海音。あの時の約束、憶えてる?」
「や、くそく……?」
「もらえなかったごほうび、いま欲しいんだけど?」