溺愛の価値、初恋の値段
ありとあらゆる場所にキスをしながら、飛鷹くんはわたしを覆い隠しているものを一つ一つ、剥ぎ取っていく。
「あ、あの時、約束って……お、オムライスっ……!」
「海音が怖がるから、そう言っただけだよ」
心臓が破裂しそうなくらい、激しく脈打っている。
耳がじんじんして、顔が熱い。
でも、泣きそうなくらい恥ずかしいのに、やめてと言えない。
心のどこかで、こうなることを望んでいたから。
たぶん、ずっと前から――。
この先に待ち受けているのは、子どもだったわたしたちには、選べなかったものだ。
「あの頃とは、違う。俺も、海音も……もう、子どもじゃない」
強張った表情でわたしを見つめたまま、飛鷹くんはシャツを脱ぎ捨てた。
「ずっと、海音が欲しくて……」
苦しそうに呟く声は、掠れていた。
「……気が狂いそうだった」
救いを求めるようにわたしの名を呼び、断罪するようにわたしを蹂躙するのは、知らない男だった。
広い胸。引き締まった腹筋。
わたしを包み込む大きい身体。
荒々しい欲望を湛えたまなざしは、恐怖と期待を同時に植えつける。
皮膚の上だけでなく、自分では触れられない場所にまで――身体の奥底にまで触れられて、声を押し殺せなくなる。
息が上がり、めまいすらするほどの激しさで、何度も何度も繰り返し征服された。
汗と涙と欲望の残滓でシーツを濡らし、
冷えた身体を重ね、
そこから生まれる熱にまた欲望を焚きつけられ、
再び絡み合う。
理性を焼き尽くしてしまうほどの熱は、
羞恥も、躊躇いも――罪悪感をも焼き尽くした。
「海音……」
粉々に砕けてしまいそうなほど強く抱き合いながら、こうすることが必要だったのだと思った。
あの時、止まってしまった時間を無理やり進めるために。
幼い恋を終わらせるために。
思い出を焼き尽くすために。
声も嗄れ、疲れ切って暗闇の中へ堕ちる直前、微かな呟きを聞いた。
「これで……やっと、終わりにできる」