溺愛の価値、初恋の値段

ありとあらゆる場所にキスをしながら、飛鷹くんはわたしを覆い隠しているものを一つ一つ、剥ぎ取っていく。


「あ、あの時、約束って……お、オムライスっ……!」

「海音が怖がるから、そう言っただけだよ」


心臓が破裂しそうなくらい、激しく脈打っている。
耳がじんじんして、顔が熱い。

でも、泣きそうなくらい恥ずかしいのに、やめてと言えない。



心のどこかで、こうなることを望んでいたから。


たぶん、ずっと前から――。


この先に待ち受けているのは、子どもだったわたしたちには、選べなかったものだ。


「あの頃とは、違う。俺も、海音も……もう、子どもじゃない」


強張った表情でわたしを見つめたまま、飛鷹くんはシャツを脱ぎ捨てた。


「ずっと、海音が欲しくて……」


苦しそうに呟く声は、掠れていた。


「……気が狂いそうだった」







救いを求めるようにわたしの名を呼び、断罪するようにわたしを蹂躙するのは、知らない(ひと)だった。


広い胸。引き締まった腹筋。
わたしを包み込む大きい身体。

荒々しい欲望を湛えたまなざしは、恐怖と期待を同時に植えつける。

皮膚の上だけでなく、自分では触れられない場所にまで――身体の奥底にまで触れられて、声を押し殺せなくなる。

息が上がり、めまいすらするほどの激しさで、何度も何度も繰り返し征服された。

汗と涙と欲望の残滓でシーツを濡らし、

冷えた身体を重ね、

そこから生まれる熱にまた欲望を焚きつけられ、

再び絡み合う。



理性を焼き尽くしてしまうほどの熱は、

羞恥も、躊躇いも――罪悪感をも焼き尽くした。




「海音……」




粉々に砕けてしまいそうなほど強く抱き合いながら、こうすることが必要だったのだと思った。



あの時、止まってしまった時間を無理やり進めるために。

幼い恋を終わらせるために。

思い出を焼き尽くすために。




声も嗄れ、疲れ切って暗闇の中へ堕ちる直前、微かな呟きを聞いた。




「これで……やっと、終わりにできる」



< 90 / 175 >

この作品をシェア

pagetop