溺愛の価値、初恋の値段
「海音。観たい映画、決めた?」
「あ……ごめんなさい。まだ、決めてなくて……」
シャワーを浴びたらしく、飛鷹くんが濡れた髪をタオルで拭いながら現れた。
「ふうん? じゃあ、行ってから決めようか。服、海音の部屋に置いたから着替えて」
「え?」
「ちょっとしたプレゼント。早くして」
急かされるまま、使わせてもらっている自室へ行くと、ベッドの上に真新しい桜色のワンピースや靴が置かれていた。
タグには、お店に入ったことすらない高級ブランドの名前がある。
ちょっとしたプレゼントではない。
(いくらしたのか、知りたいような、知りたくないような……)
あとで、ちゃんと代金を支払おうと思いながら、袖を通した。
たっぷりしたフレアスカートのシャツワンピースで、サイズはぴったり。
スカートは膝丈。シンプルなデザインは子どもすぎず、大人すぎず、ほどよいフォーマル感もある。ピンクベージュの靴はレースやリボンが可愛くて、ヒールも五センチ程度。ブランド名を見れば、納得の履き心地のよさだ。
壁に作りつけの鏡の前で、シャツの襟にかかる髪の毛をちょっと持ち上げて束ねてみれば、首筋がすっきりして見える。
(久しぶりに、髪上げてみようかな……?)
後頭部の真ん中あたりで一つに束ねる。
シンプルすぎるかもしれないけれど、おしゃれな恰好に合う髪飾りはあいにく持っていない。
「海音、もう着替えた?」
「うん」
返事をするなりドアを開けた飛鷹くんが、背後に立った。
「これ、髪に使えば?」
差し出されたのは、桜の花の髪飾り。
髪に挿せるようになっていて、大きすぎず、かといって小さすぎず、あまり派手に見えないところがちょうどいい。
「ありがとう」
ところが、受け取ろうとしたら、手を引っ込められた。
「これでいい?」
肩を掴まれ、くるりと回される。
鏡に映る自分の姿を振り返れば、ちゃんと結び目のところに桜の花が咲いていた。
「服も、靴も、海音にきっと似合うと思った。気に入った?」
鏡越しに見る飛鷹くんは、柔らかな笑みを浮かべている。
「もちろん! ありがとう。こんなすてきな服、着たことないから……あの、いくらだったの? お金は……」
「プレゼントだって言ったでしょ」
「でも、こんな高価なもの、貰えないよっ!」
「それなら、これまで働いた分を現物支給ってことで」
それでも高すぎると思ったけれど、「文句ある? ないよね?」と言わんばかりの顔で睨まれては、食い下がれない。
「あ、りがとう……」
「どういたしまして。本当は着物が良かったんだけどね……準備に時間が掛かるし、着慣れないと疲れるらしいから、今夜は諦めた。また今度」