キミ観察日記
「うみだー!!」

 フェリーの展望デッキから、青く広い海をみてはしゃぐ少女。

「あんまそっち行くな。落っこちても知らないぞ」
「すごい。うみだよ、ヨイチ」
「見ればわかる」

 少女には、つばの広い帽子を深く被らせている。

 真夏に紫外線を予防するのは至って一般的ーー熱中症対策だとも考えれば目立つこともなかった。

「……圏外」
「この先は、ほぼ外部と連絡をとることができません。電波が生きているのは、島の役場周辺くらいでしょうか」

 この国にそんな場所があるなんて。
 いや、あるとは思っていたが、自分が足を踏み入れることになろうとは。

「逆にいえば。誰からも連絡を受けなくて済むんですね」
「その通りですよ、与一くん。開放的だと思いませんか」
「あの、先生」
「はい」
「先生が受けたくないのは、仕事の連絡ですか。それとも、女性からのーー」
「野暮なこと聞かないで下さい」

 絶対に女だ、と与一は思った。

「365日、24時間誰かと見えない電波で繋がっているような生活にうんざりした人々の観光地でもあるみたいですよ」
「僕は人との繋がりは求めませんが。インターネットが使えない環境下での生活なんて考えたくもありませんね」
「紅花さんも私もいるんですから。いいじゃないですか」

 到着する前から帰りたくなっている与一。

 そんなことはつゆ知らず、少女は楽しげに広大な空と海を眺めていた。
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