キミ観察日記
「……お前なあ」
「勝手に入ってくるな。次はダーツの矢を投げるぞ。オマエの右目に向かって」

 少年の笑えない脅しが引っ掛かるも、与一は、あることが気になっていた。

「その髪」
「オレの髪の色が。そんなに可笑しいか」
「いや、そうじゃなくて。邪魔じゃないのか?」

 クッションを拾い、繭に持っていく与一。

「別に」
「いや。かなり鬱陶しそうだ。切ってやろうか」
「断る。オッサンみたいにキノコになったら嫌だからな」
「誰がキノコだと……?」

 火花を散らす与一と繭。

「キノコかわいいよ?」

 少女が与一の頭を撫でると、

「キノコは否定しないんだな」

 苦笑いする与一。

「こーか、まいにち、くくってもらうよ。ごはんのときも、べんきょうのときも」
「そうだ。なにも短くしてしまわなくても。結えばいいんだ」
「……するかよ」
「できないんだろ? やってやるよ」
「やめろ!」

 少年の背後から髪に触れようとした与一の手を、

「オレに触るなっ……!!」

 繭が、振り払う。

 ーーぽたり

「……ヨイチ。ち」

 紅花が、床に落ちる血を見て目を見開く。

 刃物ではない。

 長く鋭いマユの爪が、与一の腕を切ったのだ。

「ヨイチ。だいじょうぶ?」
「ああ。この程度の傷なら、平気だ」

 敵を威嚇するような表情で与一を睨み付けるマユに、与一が違和感を覚える。

 ひょっとしたら、この子もーー……

「まゆ、だいじょうぶ?」
「……オレ?」
「うん」
「まゆ、ヨイチがこわいの?」 
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