キミ観察日記
「やっと迎えにきてくれましたね」

 車に荷物を積んだ与一は、少し、やつれていた。

「そんなに私が恋しかったですか?」
「……いや。僕が恋しかったのは、Wi-Fiです」
「与一くんはここに残していきましょうね、紅花さん」
「先生が恋しかったです!!」
「私もですよ、与一くん」

 与一が、この家で耐えられないことが二つ。

 ひとつはネット環境がないこと。

 もうひとつは、

「見たこともない虫が……出たんです……ウヨウヨと」
「虫くらいいますよ」
「紅花は喜んでましたが。僕は無理です。あんなの」
「たくましいですね、紅花さんは」
「つよくなりますよ。アイツ」

 車が出発すると、少女が後部座席からたずねた。

「センセイ」
「はい」
「マユは?」
「彼は置いていきますよ」
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