キミ観察日記
◇
少女を寝かしつけたあと、与一はさっそくレポートをまとめ始めた。
「君の前に姿を現したんですね」
「繭のことですか」
「名前まで教えていた」
「それは偶然、紅花が見つけたんです」
「あれの髪を結ったのは与一くんですね?」
「はあ」
「よく触れることを赦しましたね。私以外のーー特に男には、基本的に近づこうとしないのに」
その言葉に与一の中で憶測が確信めいていく。
「引っかかれましたよ。猫みたいなヤツですよね」
きっと、繭も、傷つけられた子供だ。
それもその傷は相当深いらしい。
「君たちには手を出すなと伝えておいたのですが。叱っておきます」
――君たち"には"
「いや。たいした怪我ではないですし。相手はまだ、子供ですから。叱る……なんて」
与一の心臓が、ドクンと大きく鼓動する。
「優しいですね。君は、相変わらず」
お前は甘い、と。
与一はそう言われた気がした。
「先生の口から【叱る】なんて。珍しい」
「私だって躾くらいしますよ?」
「僕には怒ったことがない」
「そりゃあ、君は優等生ですから。本当に優しい。与一くんは」
「怒っていますか」
「いいえ」