キミ観察日記
 壁にまっすぐに突き刺さったナイフ。
 言葉を失う少女。

「キミには躾が必要ですね?」
「ごめんなさい。ごめんなさい……!!」
「うんと叱ったあとは。全身綺麗に拭いてあげましょう」
「……いやだっ……、しからないで……!」
「お着替えもしなきゃいけませんね」
「かえり、たいっ……」
「帰しませんよ? キミは私と一緒にこの夏を過ごすんですから」

 男が、少女に顔を近づける。

「ひっ……」
「さっきの問題の答えなんですけど」
「もん……だい?」
「人の話はちゃんと聞きましょうね」
「……みつけ……た……もの?」
「その通りですよ。きちんと聞いているじゃないですか。お利口ですね」

 男が、少女の頭の上に手を置く。
 その手には黒い薄手の手袋がはめられていた。

「観察日記を書け、という宿題でした。ご存知ですか?」
「……アサガオ、とか、の……?」
「そうですそうです。書いたことあります?」
「……ある」
「やはりそうですよね。誰しもがつけたことがあるであろう日記なんですよね。それを、当時小学生だった私は、とてもつけてみたくなった。しかし父に知られるとマズい。父の言いつけを破るなんてできなかった。結局、私がその宿題に手をつけることはなかった」
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