キミ観察日記
 ショーは20分程度のものだった。

「すごい。飛んでる!」

 少女は一瞬たりとも目を離すことなく最後まで楽しんだ。

 これが、この夏、最後の思い出になるだろう。

「もっとみたかった」
「諦めろ」
「おわり?」

 けれど、終わらせはしない。

「またこればいいだけの話だ」
「……またくるの?」
「来たくなければ来ないが」
「くる!」
「どこかで飯にするぞ。食ったら帰る」
「うん」
「たしか。飲食可能なスペースがあったな」

 与一と少女は手を繋ぎ、歩き始める。

「センセイもいっしょにきたらいいのに」
「先生は忙しい人だからな」
「マユ!」
「アイツは僕以上に引きこもりだろ」
「そこにいる」

 与一が顔をあげると、数メートル先から自分をまっすぐに見つめている少年の存在に気づく。

 特徴的な髪は白から黒に染められーーあるいはウィッグをかぶっているのかもしれないがーーまるで別人のようにも見えた。

 それでも一度見れば忘れられない端正な顔立ちから、繭だとわかった。

「なんでお前」
「オッサン。すぐにそいつを連れて、ここを去れ」
「……え?」
「2番ホームに向かえ。前から5両目の車両が停まる位置に立ってろ」
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