キミ観察日記
 理由など聞いている暇もなく、繭と別れた与一が水族館の出口へと向かう。

「いいか、紅花。絶対に僕の手を離すなよ」
「うん」
「悪いな。弁当は帰ってから食え」

 さっきから、同じ足音が聞こえる。

 どの道を通っても聞こえるのだ。


 ーーつけられている


「こっちだ」

 与一は、駅へと向かった。

 人混みをかきわけ、進む。

 この場所に逃げ込んだのが吉と出るか、凶と出るか。

 繭に指定されたホームにやってくる。

 人が少なく、これではかえって目立つ。

 さっき自分たちを追ってきた人物は、まけたのだろうか。

 それとも……

「ーー少年」

 背後から声が聞こえてくる。

「どうして逃げる?」
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