キミ観察日記
 男は、少女から離れ、三脚にセットしていたビデオカメラ――少女を全体的に映していたそれを手に取ると、再び少女に近づいた。

「未だにあのときの衝動は忘れられない。こんなに強くなにかに固執したのは後にも先にも【あの瞬間】だけで」

 男が、突然早口になる。
 口調も乱れ、息が荒くなった。

「どうしても、諦めきれなかった。だからといって。今更アサガオの観察をしたところで、結果の見えたものに僕の心が揺さぶられるとは思わない。研究室でやるような実験とその記録に興奮することもできない……!」
「やぁ……っ」

 コホン、と男が咳払いをする。

「だから、キミをさらったんです」

 怯える少女をビデオカメラのレンズいっぱいにアップで撮影する男。

「先生が持ってこられたプリントには、こう書いてありました。【好きな生き物をひとつ選び、夏休みのあいだ、毎日かかさずに観察日記をつけること】と」
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