キミ観察日記
 ――キミの主人は【殺人鬼】だ

「くだらない嘘をついてまで僕を揺さぶりたいか? 余裕ないんだな」
「……なに?」
「そんなナイフ(どうぐ)使って脅さないと、言うことも聞かせられないなんて。恥ずかしいやつめ」

 与一が、片方の口角を上げる。

「言葉で追い詰め、誘導したいらしいが。残念だったな。僕には、とっくの昔から決めてることがある。なにかわかるか」

 男はなにも答えない。
 与一の――まだ14の少年の気迫に、なにも言えなくなっているのだ。

「僕のマスターは先生だけ。……それと。信じられるのは先生だけだと思っていたんだが。これは、少し変わった。この夏に思い知った。僕はこの先、先生と自分。そして信じたいものを信じる」

 だから、繭のこと、信じてみよう。

 そして目の前の男が悪だという自分の直感を信じるのだ。

 そう決めた与一の覚悟は、かたいものだった。

「……驚いたな。キミはまだ疑わないのか。自分たちが正義だと」
「当たり前だ」
「だったら話そう。俺の周りの人間が立て続けに消えている」

 表情ひとつ変えない与一に、男は続けた。

「弁護士も、医者も、肉親さえも。すべてはお前の尊敬してやまない男の仕業だ。どこに沈めた。埋めたのか?」
「お前の被害妄想に付き合うのは。うんざりだ。加害者の分際で」
「妄想なもんか」

 与一は、思い出す。

 あの島の別荘には地下室がある、ということを。

 そこで夜な夜な少年がなにかを解体しているということを。

 あのときさばかれていたのが、仮に、イノシシではなかったとして――

「たとえそれが事実だとして。なんだっていうんだよ」
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