キミ観察日記
 与一の心に、迷いなどない。

「消す必要があったから消したんだろう? ゴミはゴミ箱に棄てる。街中に散乱していたら不衛生で迷惑だから」

 誰も拾わずにいるゴミを、気を利かせて拾ってやったとして。

 ゴミを生んだゴミも、まとめて始末したとして。

「そんな当たり前の、園児でも知ってることをーーその年で僕に諭されたいのかよ」

 与一を纏うオーラが変化していくことに、男が気づく。

「先生を否定した時点でお前の絶対悪は決定事項だ」

 優等生に見えた少年の面影は、もうそこにはない。

「キミは……キミたちは狂っている。こんなやつのいる元に、可愛い一二三を置いておけるか」
「かわいいなら、どうして暴力をふるう」
「そんなもの。愛情に決まっているだろう?」

 男の言葉に、与一が唇を噛みしめる。

 かつて、まだろくに言葉も話せなかった頃。

 自分に暴力をふるい続けていたーー名前も顔も思い出せない男と、目の前の男の姿が、重なる。

「そうだな、大人しく渡せば。キミだけは悪いようにはしない。だから。黙ってその子を渡せ」
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