キミ観察日記
「ここにいるのは。みんなオマエみたいなヤツに人生を狂わされた人間だけ」
少年が、カチカチとカッターの歯を出しながら続けた。
「直接恨みはなくても。死ぬほど大嫌いなんだってさ。消えて欲しいんだってさ。オマエのようなヤツは」
少年が、抵抗できない男の手のひらにカッターを振り下ろす。
「だからこんなにも協力的なんだ。絶対的な忠誠心があるんだ。ここで起きたことは【なかったことにできる】。なんなら【なかったことも作り出せる】。証人がこんなにもいるんだから」
手から真っ赤な血が流れ始めた。
「ダメですよ、繭。それを始めるのは、あの場所に到着してからという約束です」
「そうだった?」
「君は本当に学習能力がない」
「わかってるよ。冗談だって。汚さないし臭いも残さない。第一これはオレの獲物じゃない。とどめはアンタがさしてくれよな、センセイ」
「私は君を送ったら、帰りますので。適当によろしくお願いしますね」
「は? どういうことだよ」
「君の好きにしていいと言っているんです」
「それでいいのかよ。コイツは……」
「私は、そんなものの処分より。与一くんのご飯を頬張るあの子の笑顔が見ていたいんです」