キミ観察日記
「オレの焼いたトースト半分もらって喜んでたガキが。すれやがって。……色ボケJK」

 少年は、少女に出会った日のことを思い出す。

 それは忘れがたい記憶だった。

「なにか言った?」
「なんでもねえよ」

 そっけなくあしらっても懐いてくる少女に、生まれて初めて心を揺さぶられたのだ。

「マユには感謝してる」
「なにが」
「……助けてくれて」
「オマエのためじゃねーし」
「センセイのお願いだから、だよね」
「というよりは。単純に気に食わないヤツを消したい」

 少年が初めて殺めたのは、実母の恋人だった。

 ーー殺さなきゃ殺される

 そんな危機感から、たった8つの頃に、大きな罪を犯したのだ。

 実母は、あとを追うように自殺。
 彼女は薬に溺れていた。

 まもなく少年は施設に入ったが、そこで待っていたのは、やさしい世界なんかじゃなかった。

 上級生や職員から暴力を受けた少年は、相手に大怪我を負わせてしまう。

 イジメは隠蔽され一方的に悪者になった少年。

「オレはオッサンのような忠犬にはなれない」

 そんな傷だらけの孤独な少年を、

『大変でしたね。辛かったでしょう?』

 隔離・拘束されていた少年を、

『君の苦しみを取り除きたい』

 施設へ巨額の寄付を申し出た夫婦に、円滑に引き取られた。

 表向きは。

< 153 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop