キミ観察日記

 ◇


 その夜、男が帰宅した。

「ご苦労様でした、与一くん」

 くたびれた少年の姿に、男が頬を緩ませる。

「どうなってるんですか。先生」
「見てのとおりですよ」
「知り合いの子を夏休みの間、あずかることになったって言いましたよね。忙しい先生の代わりに僕が面倒みるわけですが」

 男は靴を脱ぐと、手袋を外し、消毒液を手にふりかけた。

「聞いていませんよ。拘束状態で寝かされているなんて」
「驚かせてしまいましたか。ですが、手錠や足枷の鍵ならリビングのテーブルの上にメモと一緒に置いておきましたよね」
「これは軟禁じゃないですか。……いや。拘束してるから監禁では」
「なにか問題でも?」
「……いえ」

 与一は【問題しかないでしょう】と言いたかったが、言葉を呑み込んだ。

「あの子は?」
「寝ましたよ」
「そうですか」
「見たところ、年のわりに妙に成長が遅れてるみたいですけど。ひょっとしてーー」
「色々と教えてあげてください。生きるうえで大切なことを」
「僕がですか!?」
「はい。君にはそれだけの対価を与えるつもりです」
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