キミ観察日記
「君はタイピングも速く。マメな性格なので、こういった類いのレポートは苦じゃないでしょう?」
「得意分野ではあります。それにしても、アイツとの時間は。……想像以上に濃いですから」

 与一は赤ワインのコルクを抜くと、男に渡したグラスに注いだ。

「さくっとまとめちゃいますね」

 そのあと与一が男の晩酌に付き合うことになるのは、おおよそ決定事項だった。

「なにか楽しんでいましたか。あの子は」
「なにか、というよりは。なんにでも関心を抱きますかね」
「ほう」

 与一がダイニングテーブルでキーボードを叩く。
 そのリズムに合わせ、タブレットの画面に文字が流れるように浮かんでいった。

「あの年の頃の自分を思い出してみたんですけど。あそこまで好奇心あったかと言われると、なかった気がします」
「君は神経質な子供でしたからねえ。なにごとにも慎重でした」
「ひとまず、粘土をやらせてみまして」
「粘土ですか」
「はい。なにを作ってもいいが絶対に食うなよと伝え、僕は洗濯とご飯の準備をしていたんです。一時間ほどして部屋に戻りました。そろそろ飽きてるかなと思ったので 」
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