キミ観察日記
 与一が、まっすぐにタブレットの画面を見つめキーボードを打ちながら話を続けた。

「そしたら紅花。まだ粘土をこねていて」
「そうですか」
「同じ姿勢だと疲れるだろうし、いったん止めようとしたんですけど。すごい集中力というか。夢中になっていましたね」
「いい経験をさせてやりましたね、与一」
「僕はなにもしていませんよ。買ってあげたのは先生ですし」
「君がしっかり見守ってくれていたから、あの子は安心して遊べたのです」
「……そういうものでしょうか」

 与一のキーボードを叩く指が一瞬止まったあと、ふたたび動き始めた。

「使い終わった粘土を粘土ケースに戻す前にチャックつきの袋にきちんとしまっておいたのも、汚れに汚れた粘土板を新品同然に綺麗にしてあげたのも、君でしょう?」
「あの。先生、やっぱり見てました?」

 男は与一の質問には答えずワイングラスを口にはこんだあと、こう言った。

「いくら遊びたくとも。周りの協力なしでは、子供はのびのびと遊ぶことも難しいのです。特に現代社会においては」
「どんな単純なことをさせるにも危険が伴うと考えておかなければ、予期せぬ事故が起こりえますね。思い知りました。最初は部屋でさせていたことも……リビングで……僕の目の届く範囲でさせるように変更しましたよ」
「ははは。そうですか」
「えんぴつさえ凶器に思えます」
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