キミ観察日記
「あの子が望むことを。とことんさせてやればいいですよ」
「勉強の方は教えなくていいんですか。読み書きがあまりできていなかったのと。計算においては1+1すら理解していません」
「そのあたりは、まあ、ゆっくりでいいです」
「先生がそういうなら、僕も助かります。一度に教えきれないですから。……紅花の負担もそれだけ大きくなりますし」
「すっかり、いいお兄ちゃんですね?」

 男は長い前髪の隙間から、細めた目で与一を捉える。
 目が合うと、与一が顔を引きつらせた。

「兄ではないです」
「ここまで君が子供に尽くすのは。少々意外です」
「僕だってかまうつもりなかったですよ。最低限の範囲でしか。こんなこと言うと怠慢だと叱られ人でなしと批難されてしまうかもしれませんが、それでも年の離れた子供との接し方なんて経験もなければ知識も乏しいですからね。先生の頼みでなきゃ、そもそもに引き受けませんし。柄じゃないことしてる自覚しかないです」
「君は十分やっていますよ。ひょっとすると、転職なのかもしれませんね?」
「やめてください」
「ふふ。風呂には入れたんですか」
「……はい」
「綺麗に洗ってやりました?」
「あの、先生」
「なんでしょう」
「あの子のカラダーー」
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