キミ観察日記
 与一は、与一の話を理解できていない紅花が、じっと自分の話を聞いているのが可笑しくなり、頬を緩めた。

「……ヨイチ」
「なんだ」
「わらってる」

 少女に言われ、与一がハッとする。

「なんで?」
「なんでもいいだろ」
「なんでなんで?」
「……昔、自分が教わったことを話してることもそうだし。当時の僕もそうやって真剣に話に耳を傾けていたのか、なんて考えると。笑えてきて」
「ヨイチもちいさかった?」
「そりゃあーー……」

 与一から、笑顔が消える。

「僕の昔話なんていいから。お前はドリルなぞってろ。なぞったら、ノートに書く。急がなくていいから、丁寧に書けよ。僕は僕の用事を済ませたい」
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