キミ観察日記
「紅花は、一、二、三を【ひふみ】と読みました」
「漢数字を勉強したのですね」
「山も、雪も知らないのに。そんな特殊な読み方をどうして知っていたのか」
「奇跡でも起きたのでしょうか」
「いいえ、そうじゃありません。最初は、こう思いました。彼女のごく身近な人間ーーたとえば家族の名前なのでは?……と」
「探偵みたいですね。与一くん」
「茶化さないでください」
「おそらくは。君が目にした通りでしょう」

 ーー行方不明中の少女、××一二三さん(7)

 与一が見かけたネット記事に載っていたその少女の顔写真は、自分のとなりにいる少女と、瓜二つだった。

 長くやわらかい明るめの髪も、真っ白な肌も、くりっと丸い大きな目も、本当によく似ていた。

「必要ありません。もう、彼女には」
「それじゃあ。やはりーー」
「一二三は。あの子に棄てさせた名です」

 穏やかにそんなことを言う男をみて、与一は、この男は少女を二度と家族の元に帰す気などないのだと思わずにはいられなかった。
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