キミ観察日記

 ◇


「おはようございます」

 男が起きてきたのは、夕方だった。

 それまでずっと眠っていたのか、そもそもに本当に夜は一睡も眠っていなかったのか、そんなことは与一にはわからない。

 知らなくていい。

 重要なのは、男が一人になりたいというなら、一人にさせてやるところだ。

「今日が僕の休暇になるような話はなんだったんでしょうか」
「忘れていました」
「ですよね」

 エプロンをつけ、夕食の仕込みをしている与一。

「ふふ、冗談ですよ。交代します」
「いや。先生にさせられません」

 与一のとなりでは少女が卵を割っていた。

「センセイ、みてみて」
「おや。上手に割れるようになりましたね」
「やるってきかないんです。部屋にいろと言ったのに」
「お利口ですね、紅花さんは」

 得意気な顔をする少女をみて与一は、お前とやると三倍の手間と時間がかかるんだぞと思わずにはいられない。

「まぜる!」
「いいか。飛び散らすなよ? 左手で器をおさえろ」
「一生懸命ですね」
「こぼしそうで見てるこっちがヒヤッとします」
「愛情こめてご飯作りとは。いいお嫁さんになりますね、紅花さん」
「その年から花嫁修行かよ」
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