キミ観察日記
「僕は……」

 与一は、たいていのものは【キライ】だ。

 突き詰めると物事に対しての原動力は【生きるためにやむを得ず】というところにある。

「外の世界だな」
「……そと、イヤ?」
「ああ。極力家にいる。その方が性に合っている。外に出ることになったら――気をつけろよ」
「あぶない?」
「そりゃあ、毎日のように事故や事件は起きているからな。身近でないからと油断しがちだが。いつどこで巻き込まれるかなんてわかりやしないんだ。そう思うとまだ引きこもり生活の方が……」
「おうちは、あんぜん?」
「いや。どれだけ自分が気をつけていても、放火やとなりの家からのもらい火で火災被害に合うし。健康であるためには、やはり外に出て身体を動かすべきなのかもしれない。日光は人体にある程度必要だというし」

 少女は、なにも答えない。
 答えられることがないのかもしれない。

「なあ。いつか行ってみたい場所はあるか」

 とても残酷な質問をしている自覚が与一にはあった。

 ーー夏休みの間あずかることになりました

 夏休みが終わったあと。

 少女は、どこで誰とどんな風に過ごすのか。

 学校には通うことができるのか。

 外に出してもらえるのか。

 そんなこと、与一には、わからない。
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