キミ観察日記
 ある夏の夜、

「すごいね、ヨイチ」

 夜空に咲き乱れる花を少女と肩を並べてみた少年の心が大きく揺れた。

「悪くないな」
「どうして光ってるの?」
「燃えてるんだろ」
「なにが?」
「……それは」

 与一が携帯を取り出そうとしたとき、

「打ち上げた人間の、夢や希望が輝いているのですよ」

 男が帰宅した。

「……おかえりなさい、先生。柄にもなくキザですね。どうしちゃったんですか」
「おかえりなさい! 先生!」
「ただいま」

 浴衣姿の少女と部屋着の少年と、スーツを着た男が花火をバックに並ぶ。

 なんて妙な絵面だろうか。

「花火の燃えかたについては、割物(わりもの)半割物(はんわりもの)、ポカ(もの)ーー大きく三つに分けることができるそうです。違いや仕組みを理解するのは、少々紅花さんには早いかもしれませんね」
「僕にも難しいです。というか、大半の人間は知らない知恵です」

 この人はどれだけ博識なのだろう。

 それをとぼけたような口調で隠すことはしても隠しきれていないですからね、と与一は思わずにはいられない。

「いつもなら、そろそろ布団に入っている頃ですよね。今日は夜更かしさんですか?」
「飽きなきゃ最後まで見せてから寝かせようかと。眠る準備は万端です」
「そうですか。そうそう。こんなものを買ってきましたよ」
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