キミ観察日記
 それは、真っ赤な丸いものが棒の先につき、透明フィルムで覆われたお菓子だった。

「かわいい!」
「りんご飴、といいます」

 あなた、そんなもの買ってくるキャラじゃないでしょう。

 屋台に並ぶ先生なんて激レアですねと、与一は頬が緩む。

「ばくだん?」
「いいえ。爆発はしませんよ」
「ゲームの中の林檎は、木から落ちると破裂したもんな」

 同時に少し妬けもした。

 自分はそんなもの、買ってもらったことがないのにと。

 ただし、それをけっして口にはできない。

「たべたい!」
「これはですね、お祭り気分を味わうためのオブジェみたいなものです。今夜限りで飾っておきますね」
「えーっ……たべないの?」
「そうですね。花火が終わって、紅花さんが眠ったら。与一くんにあげます」

 与一が目を見開く。

「ヨイチの?」
「はい。これは与一くんのです。りんごは与一くんの大好物ですから」
「ダイコウブツ?」
「とっても好きなものということですよ」
「そっか」
「ガッカリしないでください。紅花さんには、別のお土産を差し上げましょう」
「おみやげ?」
「日持ちしそうなものを選びました。りんご飴は買ったその日に食べた方がいいでしょうし、紅花さんには天敵ですが。これならいつでも安心して食べられます」

 男が、少女の目の前までもっていった手をグーからパーにすると、透明なフィルムに包まれたお菓子が登場した。

「チョコレート!」
「正解です」
「はあと」
「ハートですよ」
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