キミ観察日記


 ◇


「いつから僕はりんごが大好物になったんですか」
「違いました?」
「可もなく不可もなし、です」

 男が与一にりんご飴を手渡す。

「……僕は。甘ったるいものは見ているだけで胸焼けします」

 林檎を覆うビビットな飴が心底マズそうだ。

 かといって林檎だけ棒にささっていたとしても見向きもしない。

 ベビーカステラの方が100倍そそられる。

 そう感じるも、拒否権は、ない。

「小学生の頃の君は、私がチョコをあげると言っても頑なに拒絶反応を示していました」
「それでもかまわず口に突っ込んできたのは誰ですか。それも笑顔で」
「思い返してみると、愉しい思い出のひとつでしょう?」

 与一は、嬉しかった。

「食べないクセに毎年もらいすぎなんです。それも高そうな、ガチっぽいのばかり……」
「どうしてチョコなんでしょうね。バレンタインデーに贈るものは。それも、この国では女性から男性が一般的なのも不思議ですね」
「知りませんよ。すごくどうでもいいので調べる気にもなれません。義理じゃなくて重そうな分、僕がいただくことへの罪悪感もありました」
「そんなことを考えていたんですね?」
「考えますよ」

 自分との思い出を、男が記憶してくれていることが、嬉しかった。

「食べないんですか」
「デカすぎます」

 せめて林檎でなく苺なら、ひとおもいにいけそうなものなのにと与一は思った。

「半分こしましょうか」
「とかいって、絶対に食べませんよね?」
「はい」
「……食べますよ」
「召し上がれ」
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