キミ観察日記
 これで、明らかになった。

 男は、少女と、少なくとも数ヶ月前から繋がりがある。

 少女に治療を施したのは、おそらく男自身。

 そんな歯の状態にした保護者が献身的に子供の虫歯の治療を進めると、与一には思えないからだ。
 
 だとすれば、男は、通院履歴を残すようなこともしていないかもしれない。

 その場合、少女にかけた治療代は男のボランティアみたいなもので。

 誰にも知られないように計画的に進めたと、そんなことを考えずにはいられない。

 いくら【最新設備】で【自由に治療が行える】立場であるにしても時間は限られている。

 いつの間に、どうやって、少女の歯を治していったのか。

「僕以外に。協力者がいますか」
「それは。なんの協力者です?」

 きっとこれ以上、触れるべきではない。

 それでも確認せずにはいられなくなっている自分がいた。
 
「……先生は。紅花を救おうとしているんですよね?」

 男は、なにも答えない。

「なにか言ってくださいよ、先生」

 ドクン、ドクンと大きな鼓動が鳴る。
 それを与一は男に知られたくはなかった。

「与一くん」
「はい」
「本当は、私が」

 男の声のトーンが心なしか下がった気がしたとき。

 与一は男の言葉に、耳を疑う。

「あの子を殺してやりたいと言ったら。君は私のことを憎みますか」
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