キミ観察日記
「そうですか?」
「妙ですよ。治療をしたのも、この家に連れてきたのも、先生なのに。放っておくことも丸投げにすることもできたのに。僕にあれこれするように助言だってして、それでいて面倒みるつもりないなんて。矛盾している」
「君がそこまで感情的になるとは。そっちの方がとても可笑しいです」

 口角をあげる、男。

「僕は真剣に話してるんです。ひと一人の人生の話なので」
「生きていく上での知識は、まだまだ彼女には足りませんが。それでも大きく成長したようですし。あとは自分の力でなんとかしてもらいましょう」

 与一は、ハッとした。
 もしも自分が引き受けなければーー仮に引き受けたまま何日も少女を放置していたら。

 少女は、今でも猿ぐつわをつけ、手足を縛られていたのだろうか。

 男が留守の間、誰からも人間らしい扱いを受けなかったのだろうか。

「だったら。名前は」
「変えてやりましたよ」
「……そんなことが可能だと」
「はい」
「親でもないのに?」
「そうです。私はあの子の親ではありません。養育義務もない」

 そういうと、男は、

「ただの思いつきで子飼いしているにすぎません。やめるのもまた気分です。慈善事業するつもりは、さらさらありません」

 与一の手を取り、紅色の果実にかぶりついた。
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