敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~
ふたりとも、お互いに遠慮がないのは明らかだ。素を見せ合えている感じがして、羨ましくなる。

そういえば、私はまだ生巳さんに本当のことを打ち明けられていない。好きになったきっかけが眼鏡だった、なんて知ったら幻滅されるだろうか。

不安が過ぎるうえに、彼らの息ぴったりなやり取りはしばらく続き、徐々に気が重くなってくる。慧子さんの楽しそうな笑い声すらも、わずらわしく思ってしまう自分が嫌だ。

デザートまで食べ終えたところで、気分をリセットするためにもお手洗いに向かった。

用を足したあと、鏡に映る自分に〝嫉妬は醜くなるだけだよ〟と言い聞かせる。気持ちを切り替え、化粧室をあとにした。


──しかし、席に戻る直前に目に飛び込んできたのは、生巳さんと慧子さんが寄り添っている後ろ姿。なぜか私が座っていた席に慧子さんがいて、彼にしっかりと腕を絡めている。

どうして?と疑問で一杯になり、通路を行き交う社員に紛れて足を止めたときだ。


「慧子」


たしなめるような生巳さんの声が聞こえ、心の奥でドクンと鈍い音が響いた。

さっきまで〝七岡さん〟と呼んでいたよね? 本当は、もっと親しい仲だったの?
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