敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~
……どうしてだろう。この間『好きだな』と言われたときは多少なりとも動揺したのに、今は心が動かない。


「僕は君を、心から可愛がってあげるよ」


とろける笑みとともに、再び糖度の高いセリフをかけられたものの、まるで第三者のごとく客観視する自分がいた。

ああ……たぶん、彼の本気を感じられないからだ。なんだか遊ばれている気がして。

それと、私の生巳さんへの想いが完全に上回っているから。報われないとしても、この想いを簡単に捨てることなどできない。

私は目を伏せ、ぽつりぽつりと本音を吐露する。


「すみません……私、専務以外の男の人には、たとえ眼鏡をかけている人でもときめかなくなってしまったんです」

「眼鏡?」


意味がわからない、といった調子で首を傾げる彼を見上げ、今度はきっぱりと告げる。


「つまり、専務じゃないとダメなんです。ごめんなさい!」


バッと勢いよく頭を下げ、逃げるように駆けだす。「森次さん!?」と呼ぶ声を振り切り、一目散に駅へと向かった。

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