敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~
最寄りの駅に着くと、マンションへの道をひとりでとぼとぼと歩く。いつも生巳さんが車で送ってくれていたから、とても変な感じで心許ない。
烏丸さんって爽やか好青年だと思っていたけど、ちょっと印象が変わったな。軽いというか、彼こそ腹黒そうというか。
それはそうと、帰ったら荷造りをしなくては。生巳さんは私が出ていくことを許していない様子だったけれど、慧子さんがいるなら同居なんてしている場合ではない。
また心が重くなるのを感じながら、マンションの前の通りを歩いているとき、ふいに女性の声が響いた。
「やーっとひとりになってくれたわね」
最初、自分に放たれた言葉なのかわからず、周りをキョロキョロする。すると背後に、長い巻き髪の、ばっちりメイクの女性が腕組みをして立っていた。
見知らぬ顔だが、彼女の声や全体的な雰囲気には覚えがあり、まさか、とギクリとする。
「あなたに結婚相手を奪われた者よ、って言えばわかるかしら?」
その言葉で確信した。この人は、生巳さんとお見合いをした女性だと。
「美香、さん……!?」
「あら、あの人から名前を聞いていたのね。嬉しいわ」
動揺しまくる私とは反対に、彼女は余裕の笑みを浮かべた。