敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~
無気力な調子で答える彼に、慧子は興味深そうにする。


「へー、珍しい。爽やか好青年路線に変わってから順調だったのにね。お相手はどんな子?」

「森次花乃」


烏丸の口から飛び出した名前に、俺は目を見張り、慧子は「えっ!?」と声を裏返らせた。

花乃にフラれたって……いつの間に会って告白していたんだ?

彼女に接触していただけで気に入らず、慧子の隣に座った元チャラ男を鋭く睨みつける。

視力の悪い俺とは違って、真面目な印象を与えたいがためにかけている眼鏡をはずした彼は、片方の口角を上げる。


「桐原、森次さんのこと好きだろ。打ち合わせのときから、あの子を見る目が気味悪いくらい優しかったからすぐにわかったよ」


こいつが俺の気持ちに感づいているであろうことは、なんとなく予想がついていた。打ち合わせのときに『おふたり、仲がよさそうだから』と言ったのも、挑発に似たものだと思う。

おそらく慧子も、花乃と接する俺を見て悟ったのだろう。烏丸の言う通り、花乃を見る瞳も表情も、無意識に甘くなっていたのは否めないから。
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