敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~
「生巳さんのこと、美香さんも本気で好きだったのかもしれませんね」


ぽつりとこぼれたその考えが正解しているかどうかは、今となってはわからないし、知ったところで許せるわけでもない。

ただ、あの人が見ていたのは、上っ面をよくしていた男の姿だ。


「本性はとんでもなく腹黒くて性悪な奴だったと知って、今頃幻滅してるだろ。……花乃は引かないのか?」


少しだけ身体を離して、月明かりに照らされる彼女の表情を窺う。


「紳士的で誠実な男じゃないよ、本当の俺は」


花乃のことになると余裕なんてなくなるし、悪さをする奴らには容赦しない。今回のことですっかり素をさらけ出してしまったが、それでもいいと思っているのだろうか。

確かめるようにじっと見つめていると、彼女はどこか決まりの悪そうな顔になり、目を泳がせた。

そしておもむろに俺から離れ、なにやら地面にしゃがむので、俺は眉をひそめて眺める。


「それを言うなら、私だって……」


呟きながら戻ってきた彼女の手には、傷がついた俺の眼鏡が。両手で大事に持ったまま、真剣な眼差しでこちらを見上げる。


「ずっと、秘密にしていたことがあります」


予想外のひとことに、風に吹かれる木立のごとく胸がざわめいた。


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