敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~
今の会話が聞こえていたのかは定かじゃないけれど、社長は意味ありげな目をしてこちらを振り向く。


「なにか言ったか? 麗」

「少々伝え忘れたことが」


有咲さんがきりっとした秘書モードで答えると、社長もなにかを思い出したらしい。「ああ、俺もあった。カノちゃんに」と言い、今度は彼がポケットに片手を入れてこちらに歩み寄ってきた。

私のすぐそばまで来ると、耳元に顔を近づけ、私だけに聞こえるように囁く。


「桐原は眼鏡をはずすと豹変するから、気をつけろよ。……って、もう遅いか」


自分でツッコんで含み笑いする彼。そのアドバイスには心当たりがあり、私はドキッとさせられていた。

そういえば、初めてキスをしたときも、ミーティングルームで迫られたときも、眼鏡をはずしていたっけ。あれは豹変する前兆だったのか。

なんですか、その癖は……フェチにとってはたまりませんよ!

顔を火照らす私に、社長は「お幸せに」と微笑みかけ、有咲さんとひと足先にオフィスへ戻っていく。

緩みそうな唇を結んでいると、隣に軽い殺気を感じてはっとした。
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