敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~
残された私たちの中で、エイミーだけが大興奮している。


「やばーい、こんな少女漫画的な展開になるとは思わなかった! さっすがボス、いい提案してくれたわ~。ちょっとちょっと、イクミンどうするの? 本当に偽恋人になっちゃうの~!?」

「ちょっと黙りましょうか、橘さん」


キャンキャンとまとわりつく子犬みたいな彼女に、専務は苦笑を浮かべて穏やかにたしなめた。

エイミーは、専務のことも生巳という名前から〝イクミン〟と名づけて呼んでいるのだ。このフランクさは私にはマネできない。

それにしても、本当にこれからどうなるのだろうか。社長の提案もひとつの策ではあるけれど、専務は規律正しく、道理に反したことは嫌っていそうだから、恋人役を引き受けるとは思えない。

むしろ、母に嘘をついた私を見損なっているかも……。

今頃になってまた別の不安が生まれ、視線をやや落としとしていると、どこからか軽快なメロディが聞こえてくる。スキニーパンツのポケットからスマホを取り出したのはエイミーだ。


「きゃー、こんなときに電話……カノちゃん、あとで報告よろしく!」

「あ、う、うん」


私に片手を挙げた彼女は、スマホを耳に当て、慌てて社長室を出ていった。
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