敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~
マンションの場所は父を通して知ったのだろう。本当に余計なことをしてくれた。こちらの都合などお構いなしに来られるので、迷惑極まりない。

もちろん断固として部屋には上げず、毎回なんとか帰ってもらっているのだが、穏便に追い払うのもほとほと面倒になってきた。

俺のなにがそんなに気に入ったというのか。彼女の顔立ちや容姿は派手なほうで、この強情で自己中心的な性格さえ受け入れれば、付き合う男には困らないはずなのに。

とにかく、これ以上つきまとわられないためには、他の女性を愛していることを知らしめるのが手っ取り早い。不破社長もそう考えたから、あの提案をしたのだろう。

こんな芝居で納得してもらえるかはわからないが、物は試しだ。愛おしそうに森次さんを抱きしめ、今しがたの『なにをしているの!?』という問いに答える。


「部屋まで我慢できなかったんですよ。手離したくない人ができまして」


そう口にしながら、今日は珍しくダウンスタイルの綺麗な黒髪をそっと撫でると、なんだか不思議な感覚を覚えた。本当にこの子が大切なのでは、と錯覚するような。
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