敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~
これまでなるべく波風立てない言動でやり過ごしてきたが、もっときつく言い聞かせなければならないらしい。


「私は財産や地位にも、あなた自身にも興味がない。どれだけ方便を並べられても無駄です。……ああ、『形だけでも夫婦になりたい』というのは本心でしたか。美香さんが欲しいのは、人に自慢できる夫の存在、ですよね?」


俺の言葉に、彼女は明らかにギクリとしている。

彼女はきっと上辺だけのものを手に入れたいのだろうと、薄々感づいてはいたが確信に変わった。

見合い相手として現れたのが、そこそこな肩書きを持っていて紳士的な振る舞いをする男だったから、絶好のチャンスだと思ったに違いない。それを逃したくなくて躍起になっているだけだ。

しかし当然、本人は認めたりはしない。


「ち、違うわ! 酷いわよ、桐原さん……私をそんなふうに見ていたの?」

「あなたこそ、私を金や地位に釣られる男だと思っていたんでしょう」


さめざめと泣きマネをするので呆れ気味に返すと、彼女はぐっと押し黙る。

単細胞で面白い人だな。決して笑えないが。
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