敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~
「ようやく諦めましたか。これでもう現れないといいんですが……。あ、森次さん」


いけない、早く解放してあげなければ、と気づき、包み込んでいた腕の力を緩めた。

腕の中で縮こまっていた彼女は、真っ赤な顔で放心状態になっている。このくらいで固まってしまうとは、なんてピュアなんだ。


「すみません、苦しくなかったですか?」

「は、はい……や、ちょっと、だけ」


途切れ途切れに言葉を発し、動揺しているのが明らかな様子に、罪悪感を覚える。

それと同時に、まったく別のもの──うぶな可愛さに、少々いたずら心をくすぐられる感覚も。

不届きな後者はひた隠しにし、丁寧に謝る。


「突然こんなふうに巻き込んで、本当に申し訳ありません」

「いえ、大丈夫です。でも、あの人は……」


慌てて頭を振った森次さんは、お嬢様が去っていったほうを心配そうにちらりと見やる。

今回のことを説明しなければいけないが、ここでは不安だし、立ち話する内容ではない。


「彼女がまだその辺にいるかもしれないので、中でお話します。私の部屋に上がってください」


万が一見られても構わないよう華奢な肩を抱き、耳に顔を近づけて囁く。

黒目がちな瞳が一瞬大きく見開かれ、やはり戸惑いを露わにしながらも「……はい」と頷いた。

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