敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~
口元に手を当てて思案した俺は、キョトンとしている彼女にこう告げる。


「森次さん、今夜はここに泊まったほうがいい」


彼女は薄いメイクでも長いまつ毛をぱちぱちと瞬かせ、数秒の間を置いて「ヘっ!?」と叫んだ。


「いまいち安心できないんですよ。あの執着の仕方からして、簡単には諦めない気がするんです。これは極論ですが、私たちのことを見張って揚げ足を取ろうとしてくる可能性もある」


最後に残していった『いつかきっと、私を捨てたことを後悔するわよ』というひとことも引っかかるし、報復のようなものを企んだとしても不思議ではない。プライドが高い彼女なら、なおさら。

このマンションの向かいには、道路を挟んでカフェがある。窓際の席に座れば、ガラス張りの店内からエントランスは十分見える。

実際、彼女は俺が帰宅する時間に合わせて現れることが多かった。そういうときは、カフェで外の様子を見ながら待っていた可能性が高い。

もし彼女が俺たちの仲を疑って観察しているとして、今ふたりでここを出たら不自然極まりない。

今夜は酒を飲んでしまったからタクシーを呼ぶしかなく、森次さんひとりで帰らせるのはさらにおかしいだろう。
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