敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~
そこまで気が回らず、ここに連れてきてしまったことが悔やまれる。

難しい顔をする俺に、しばし恐れの表情で絶句していた森次さんが、たどたどしく言う。


「そ、そんな……見張ってるだなんて根気のいる探偵みたいなこと、お嬢様がしますかね?」

「しますね、あの人なら」


即行で返せば、彼女は「そうですか……」と落胆して頭を垂れた。

控えめに生きてきたであろうこの子は、おそらくこんなゴタゴタに巻き込まれた経験などないだろう。不用意に怖がらせてしまって申し訳なさが募る。


「森次さんの顔は見せていないので大丈夫だと思いますが、もしあの人がなにか悪さをしようと、私が必ずあなたを守ります。そこは安心してください」


落ち着いた笑みを浮かべる俺を、一瞬こちらに向けられた澄んだ瞳が捉えた。しかしすぐにまた背けられ、両手でバッと顔が覆われる。


「守る、とか……と、泊まるとか、さっきからもう……」

「森次さん?」


彼女は俯いてさらに顔を隠し、なにかをぶつぶつと呟いている。どうしたのかと覗き込もうとしたとき、勢いよく顔が上げられて驚いた。
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