敏腕専務はウブな彼女を染め上げたい~イジワルな彼の甘い言いつけ~
椿のように顔を赤くして呆気に取られている彼女に、優しく微笑みかける。


「緊張を解いて、今夜はここでゆっくりしてください。恋人をタクシーでひとり帰らせることなんてできませんよ、たとえ偽りでも」


そう言うと、なぜだか森次さんは腑に落ちたというような、スッキリした表情で俺を見上げる。


「そっか……誰にも見られていない今も、あえて恋人扱いしてくださっているんですね。ここまで気を遣うとはさすが専務、抜かりないです」


……まさか、これまでの俺の発言は偽りの恋人としての演技だと解釈したのか?

可愛いと口にしたのも、新しい一面を発見して嬉しいのも、帰したくないのも本心なのだが。

もっと言えば、食事中に彼女のお母さんに伝えた『ひたむきに仕事に向き合う姿が魅力的で』というセリフも。

しかし、純粋に尊敬しているような目で見られるとなにも言えない。なんとなく物足りない気分になりつつも、ひとまず逃げる気は収まったらしいので、泊める準備を始めることにする。


「風呂を軽く洗ってきます。コーヒー、飲んでいてください」

「……すみません。ありがとうございます」


恐縮そうに頭を下げた彼女を再びソファに座らせ、俺はバスルームへ向かう。ひとりになると、無意識にため息がこぼれた。
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