彼女は突然、僕の前に現れた。

　嬉しそうに笑って伊織は仕事に戻った。
　「君も隅に置けないね、花田君」
　「課長…」
　「はいこれ、来週までによろしく」
　そう言って課長は敦のデスクに仕事の紙を置いた。
　苦笑いを浮かべながらも敦はそれを受け取り仕事に集中した。
　「…ってことなんだけどいいかな？ユリ」
　「私は構いませんよ？」
　「ありがとう、お土産買ってくるからね！」
　「はい、楽しみにしてます！」
　夕飯を食べ終わって敦はお風呂場に行く。
　食器洗いをしているとユリは胸に違和感を覚えた。
　「さっきの…このチクってした痛みは何だろう…」
　ユリは頭を横に振り気のせいだと思い込む。
　食器を洗い終わったユリは敦のベッドに横になる。
　「明日になれば大丈夫だよね…」
　そしてユリはそのまま眠りについた。
　お風呂から上がって戻って来た敦は驚いていた。
　「ユリも疲れていたのかな」
　いつもは自分が寝るまで起きているユリが、自分のベッドを使ってぐっすり眠っていた。
　敦は眠るユリの頭を優しく撫でた。
　「おやすみ、ユリ」
　部屋の電気を消して床に敷いてる布団で眠った。
　朝、敦は料理をする音とお味噌汁と焼き魚の匂いで目を覚ます。
　「ん…ユリ？」
　「あ！おはようございます敦さん」
　「うんおはよう、ユリ」
　「もうすぐでできますからね」
　ユリにそう言われて敦は朝の仕度を済ませるため洗面所に行った。
　敦が戻ってくればテーブルには炊き立ての白いご飯にふわふわの卵焼き、程よく焼けた酒にわかめと豆腐が入ったお味噌汁が並んでいた。
　「今日も美味しそう。いただきます」
　敦は両手を合わせて食べ始める。
　「あの、敦さん」
　「何？」
　「…今日の夕飯って」
　「あー…うん。聞いてくるよ、分かったら連絡するね」
　「はい…」
　そう返事をするユリはいつもより元気がないように見えた。
　「どうかしたユリ」
　「い、いえっ！何でもありません」
　「？そう」
　美味しいと言ってご飯を食べる敦をユリは嬉しそうに眺めていた。
　「それじゃあ、行ってきます」
　「行ってらっしゃいませ」
　仕事に行く敦を見送りユリは洗濯や掃除を始める。
　「昨日からモヤモヤする。だけど敦さんには心配かけたくないな」
　めったにため息をつくことがないユリは手が止まるたびにため息をついていた。
　「はぁ…」