彼女は突然、僕の前に現れた。
 「少し前から同居人の元気がなくてさ。女の子なんだけど男の僕には良く分からなくて」
 「その子は何か悩んでるのんじゃないですか?」
 「悩み…。確かに最近煮え切らない返事が多いかも」
 「では、花田さんが聞いてみるのがいいかと。今その子に近しいのは花田さんですから」
 「そうか、聞けばいいのか。ありがとう上田さん」
 「いえ、私は何も」
 「相談に乗ってくれたでしょ。だからありがとう、今日帰ったら聞いてみるよ」
 スッキリとした表情で敦は仕事に戻る。
 しかし伊織の表情は暗かった。
 「同居人さん、きっと花田さんが好きなんだろうな…。本当罪深い人です」
 伊織はボソッと呟きロビーの受付に戻って行った。
 「ユリさん、逃げずこちらに座ってください」
 敦は正座で座って自分の向かいに座るよう促した。
 「…何でしょうか」
 「ユリは何か悩んでるの?」
 「え…」
 ぎくりとユリの肩が微かに動く。
 「一人で抱え込まないで欲しいけど、僕じゃ頼りない?」
 敦が寂しそうな表情で言うからユリはすぐさま否定するように首を横に振る。
 「じゃあ、話してくれる?ユリが何に悩んでいるのか」
 ユリは頷いてゆっくりと話し始めた。
 「ここ最近、ここがチクリと痛むんです」
 ユリは自分の胸に手を当てる。
 「何故なんでしょう。敦さんのことを思ってると胸が躍るんです。でも敦さんが他の女の人といるのを想像すると胸がチクリ痛むんですよ」
 ユリは不安気に聞く。
 それに敦は答えることができなかった。
 金曜日、敦は仕事終わり会社のビル前で伊織を待つ。
 「すいません。遅れてしまって」
 「ううん大丈夫。僕も丁度来たところだよ」
 敦は車道側を歩く。
 お店に着いて敦は伊織に聞いてみた。
 「―って同居人が言っていたんだけど、僕には分からなくて」
 「…それ、私に聞きますか?」
 「え?」
 伊織の声がいつもより低くなる。
 「…いえ。何でもないです」
 伊織は笑って見せる。
 「そ、そっか」
 二人は話ながらご飯を食べる。
 「私が誘ったので、私が払います」
 「いいよいいよ。僕が払うから、先に外行ってて」
 敦は伊織に外で待つよう言い、伊織はお店の外に出た。
 「ありがとうございます花田さん」
 「ううん。こちらこそ、誘ってくれてありがとう。帰ろうか」
 人混みを歩いて行って住宅街に入る。
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