有難うを君に
秘書カンパニー
翌週の月曜日から俺のソープ巡りが始まった。

とりあえず市内にある店を回ってみる事にして、中2日のペースで順に回ってみたが、相変わらず納得の出来る結果は出ないまま、ついに最後の一つになっていた。

【秘書カンパニー】

スマホの画面に表示された店名をタップするとサイトが表示された。まず目に付いたのは口コミの件数の多さだった。他の店だと多くても50件ぐらいなのに秘書カンパニーは256件、しかも平均評価がほしい4つでかなり高い。

「凄えな・・」

取り敢えず【女の子一覧】を開いてみると、その日の出勤している女の子が表示された。ざっと見ても表示されている女の子のルックスのレベルがかなり高く、【秘書】のコンセプト通り身体にピッタリとしたミニのタイトスカートでのスーツ姿は扇情的だ。

1番上に載っている【雨宮ゆりな】のページを開くと、一覧に載っている写真とは別の写真が何枚か表示された。

「これ、マジか・・」

思わずそう漏らしてしまう程綺麗な女の子で、芸能人に居ても何も違和感がないレベルだった。プロフィールにはT153・85(D)・56・84と身長とスリーサイズが書いてあり、スタイルもかなりのレベルだとわかる。

小柄な事も好みのど真ん中で、頭の中で【雨宮ゆりな】を候補の1番に入れて一覧のページに戻り、画面を下にスクロールさせてひと通り目を通してみた。何人か気になる女の子をキープしてから再び【雨宮ゆりな】のページに戻った。

『お知らせ

 【雨宮ゆりな】嬢、驚異的な予約殺到の為通常 イベントの割引き対象外とさせていただきます。』

と注意書きがしてあり、その下に指名と本指名の時の料金がそれぞれ明記されている。もしパネル通りのルックスなら頷ける対応だ。

時計に目をやると9時を少し回っていた。

「10時出勤か、でもこの感じだと今からじゃ予約無理っぽいな・・・」

一応予約が取れなかった時の事も考えて【本日出勤】になっている他の子の中からもう1人選んでおいて、電話すると書かれたバナーをタップした。

少し間があってからコール女がなり、2回目のコールが終わる直前に受話口から男性の声が聞こえた。

「ありがとうございます。秘書カンパニーです」

「すいません、予約をしたいんですけど」

「はい、当店のご利用は初めてですか?」

「はい、初めてです』

「ありがとうございます。それでは予約のお時間と女の子はお決まりですか?」

「時間は10時半からで雨宮ゆりなさんでお願いしたいんですけど」

「ゆりなさんですね。ええと、少々お待ち下さい・・・はい、ゆりなさん10時半からですね。コースのお時間はどうなされますか?」

「サイトに書いてあった100分のコースでお願いします」

「100分のロングコース割ですね。ご新規様ですので入会金指名料込みの3万2千円になりますね」

「はい、わかりました」

「それではお名前よろしいですか」

「窪田です」

「はい、窪田様ですね。それではゆりなさんで10時30分から100分コースでご予約承ります。お時間の10分前ぐらいにお越し下さい」

「はい、お願いします」

「お待ちしております」

スマホをベッドに置いてからシャワーを浴びた。ドライヤーもそこそこにジーンズに襟付きのTシャツを着て、上からカーディガンを羽織った。今日は時季外れに暖かい日になるらしいからこれで大丈夫だろう。

時間はもう少しで10時。

車で15分もあれば店に着くから少し早いが、まあ早く着く分には問題無いだろうと思い家を出た。

最近はナツの家に行く回数が減った。俺がソープに行っている事に対してナツは何も言わないどころか『今度はどんな子だった?』などと、興味深々に聞いてくる始末だ。

ナツは俺と似ている。恋愛に何処か冷めていて、俺との曖昧な関係にも特に不満を言わない。

『別に彼女になったって司は今と変わらないでしょ?私も恋人になってもきっと今と変わらないしね』

以前にナツはそんな事を言っていた。

きっとナツの言う通り、恋人になった所で俺達の関係は今と変わらない。俺もナツも彼氏とか彼女とかそんな呼び方に意味を見出せない人種なんだと思う。

俺とナツの関係にもし変化があるのなら、ナツが俺の事を嫌いになるか、俺がナツを好きになるかだろう。

残念ながら今の所どちらも可能性は薄そうだが。

ソープにしては珍しく【秘書カンパニー】には店の裏手に専用の駐車場があった。舗装されたばかりの色の濃いアスファルトには、まだ霞んでない白いラインが等間隔で引いていあった。

朝1番な所為か駐車場には1台車が停められているだけで、6台分程のスペースが空いている。停めやすい真ん中にバックで駐車をして、車から降りて歩いて表側に回った。

別の店に行く時に何度か前を通った時から思っていたが、他の店に比べるといくらか新しく見える。とは言え、聞いた話だと今の建築法かなんかの関係でソープの作りの建物は今は新築出来ないようだから、近くで見ると建物自体はやはり年季を感じさせるので外装を塗り直したとかその程度だろう。それでも白を基調にした外観は他の店よりは随分小綺麗で入りやすい雰囲気だった。

【入り口はこちら】と書かれている自動ドアのセンサーに手をかざして中に入る。入ってすぐ左手に下駄箱があり、どうやら右手側に伸びた廊下の突き当たりに受け付けがあるらしい。

コンビニでよく聴くチャイムが鳴り、廊下の先の方から40代くらいの男性スタッフが歩いて来る。

「いらっしゃいませ。御予約ですか?」

「はい。10時半に予約した窪田です」

「はい、窪田様ですね。お上がりになってこちらにどうぞ」

見ると一段床が高くなっていて、そこに黒いスリッパがいくつか並んでいた。靴を脱いでスリッパに履き替えてから、靴を下駄箱に入れようと屈むとスタッフに『そのままで大丈夫ですよ』と声を掛けられた。

靴をそのままにしてスタッフの後について行こうとすると、すぐ左手に10畳ぐらいのスペースがあって向かって左右の壁にテレビと本棚。それに向かう様にしてソファーが並んでいた。

そしてテレビの間を抜けて部屋の向こう側には黒いカーテンがしてあるので、カーテンの先にはおそらく部屋が並んでいるのだろう。

廊下を突き当たった左側に受け付けがあり、その横にもカーテンが引いてあった。スタッフが内側に入ったので俺はカウンターを挟んで向かい合う。

「え〜、当店は初めてですね。それでは今日はゆりなさんで100分のコースでお間違いないですか?」

「はい、大丈夫です」

「それでは3万2千円になります」

俺は肩に掛けたカバンから財布を取り出すと3万2千円取り出してスタッフに渡した。何度か通ってソープにも慣れてきたが、この支払いの時だけは相変わらず抵抗がある。

「ありがとうございます。ではこちらの記入をお願いします」

スタッフがカウンターの上に出したアンケート用紙にはオプションなどの有無や希望などが書いてあり、内容に多少変化はあるものの【ラビットハウス】で書いたの殆ど同じだった。

特に悩む内容でもなく直ぐに書き終わると受け取ったスタッフに爪が伸びていないかのチェックと、カウンター横に書いてある注意事項の説明をされてから待合室で待つ様に促された。

待合室も外観と同じく白をベースにしたもので清潔感がある。他に客が居なかったのでテレビの目の前に置かれたソファーに腰掛けた。

テレビはワイドショーを流していて、漫画も特に興味を持てる物もなくタバコに火をつけてスマホを取り出すと風俗情報サイトを開いた。

【雨宮ゆりな】の写真を改めて見る。モデルや芸能人と言われても納得のいくルックスで扇情的なポーズで写っている。

だが、ゆりな程では無いにしろ写真で美人な女の子なら他にもいた。写真は写真でしかないのだからと過度な期待はしない様に自分に言い聞かせた。

「会員番号4798のお客様お待たせしました」

受け付けをした時にもらった会員証を見て自分の番号だと確認して立ち上がった。他に客が居ないのだから確認するまでも無かったと思いながら、スタッフの後をついて行く。

待合室の奥のカーテンではなく、受け付けカウンターの横にあるカーテンの方に案内されてスタッフがカーテンを引きながらマウスウォッシュを手渡してくる。

「エチケットですのでお願いします」

言われた通りにすると

「2階で女の子がお待ちしてますのでどうぞ」

と言われた。

カーテンの奥は部屋ではなく、階段が右手側に伸びていて途中で折り返しがあって2階は見えない。独特の緊張感を覚えながら折り返しまで登り身体の向きを変えて少しだけ視線を上向きにした。

断言出来る程今まで通ったどのソープの女の子よりも綺麗だった。写真では少しキツめに見えたが実物はどちらかと言えば柔らかい雰囲気で、大きな瞳に柔らかそうな唇。少しだけ面長だが鼻筋がスッと通っていて、明るめの髪は肩口から背中に消えている。

白いブラウスに濃いブルーとグレーのストライプのスカーフ、紺色のジャケットは秘書のコンセプトだろう。ただ、タイトなスカートは短過ぎて屈まなくても下着が見えてしまいそうだ。

「初めまして雨宮ゆりなです」

階段を登り切るのと殆ど同時に聞こえた声は想像より低目でハスキーだった。

「初めまして、よろしく」

微笑んだゆりなが両手を広げる。俺は近づいてからゆりなの細い身体に腕を回す。俺のアゴの下にゆりなの頭が入り甘い匂いから鼻をくすぐる。

少し身体を離すと背伸びをするゆりなと唇を重ねた。

「部屋行きましょうか」

笑顔のゆりなに促されて直ぐ側にあるドアが開けっぱなしになっている部屋に入った。

部屋の中もやはり白を基調にした内装で、造り自体は他の店とそう変わらなかったが、少し広いのと秘書のコンセプトに沿った座り心地の良さそうな椅子とデスクが備え付けられていた。

「上着掛けますね」

「あ、うん、ありがとう」

ゆりなに言われて着ていたカーディガンを脱いで手渡した。

「お兄さんオシャレですね。カーディガン可愛い」

「そう?あんま服にこだわる方じゃ無いんだけどね」

「そうなんですね。でもそんな薄着で寒くありません?」

「今日は暖かいよ。車だしね」

「確かに晴れててお日様は暖かいですもんね」

「車の中だとちょっと暑いぐらいだしね。しかし、写真でも思ったけどホント可愛いね」

「え〜!ホントですか?嬉しいですけど、そんなはっきり言われると恥ずかしいですね」

「可愛いってより綺麗って感じかな。マジでちょっと美人過ぎてびっくりしてるよ」

「お世辞でも嬉しいです」

「いやいや、俺はお世辞は言わない男だからホントに思ってるよ」

「ふふっ!そうゆう事にしておきますね。お風呂行きましょうか」

慣れた手付きでゆりなが俺の服を脱がせて側にあった箱に畳んで入れて行く。全部脱ぎ終わってから浴室になっている方に連れて行かれた。

「脱がないの?」

ゆりなが服を着たままシャワーを手に取ったのを見てそう聞いてみた。

「お兄さんこの店初めてですよね?」

「うん。そうだけど」

事前に書いたアンケートの項目にあったのでゆりなも見て知っているのだろう。

「だから楽しんでもらいたいですから」

「楽しんで?」

ゆりなの言葉の意味がわからず首を傾げた。

「まあまあ、後でわかりますから。身体洗いますね、座ってください」

「ん、了解」

言われるままに座ると器用に服が濡れない様にしながらゆりなが俺の身体を丁寧に洗って行く。

「こうゆうお店よく来るんですか?」

「どうかな、他の人がどのぐらいのペースで来るかわからないからなんとも言えないけど、初めてソープに行ったのは今月の初めぐらいで、今日で6回目かな」

「え?今月初めて行って今日でもう6回目って多くないですか?」

「そうなん?まあ興味持ったら納得いくまでやる切る性格だからかな」

驚いて止めていた手をゆりなが動かし始める。

「納得行くまでって事は今までの女の子はあんまり良い子いなかったんですか?」

「良い子が居なかったってよりは、合う子がいなかったって感じだね。安くないのにソープに通う人がいるって事はそれなりの価値を見出してるって事なんだろうから、その価値ってのが知りたくて」

「確かに本当にありがたい事によく来てくれるお客さんも居ますね。私にそれだけの価値があるのか自分ではわからないですけど」


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