教育戦争と色
「ねえ、しってる。今週もあの人が一位なんだって。」
「知ってる。喜びもしないし悲しみもしないんだから怖いわ。」
「あの人よりずっと努力しているのにね。」
学校ではうわさが飛び交う。
あの人、とは色のことだ。
色はいわゆる嫌われ者だったのだ。
「なあ。」
この世界では教育、勉強がすべてだ。
その世界の中の【日本】は2020年から××年たったいま、
教育戦争が始まったその年からシンガポールが一位を独占している。
日本はせいぜい全体値で世界7位といった所だろう。
これは決して低い位ではないが、
上位を独占している国は元大国のアメリカや中国ではなかった。
世界は教育戦争で優劣が入れ替わってしまった。
武器を作ることばかりに気を取られていた国は真っ先に最下位まで落ちていった。
そんな今の日本で生まれてから学力が伸び続け、天才と呼ばれる色だったが、
本人としてはちっぽけな学校の中での一位なんて嬉しいわけでもなく、
興味を示すにはくだらなすぎることのようだった。
「毎日、飽きもせずによくもまあ勉強をしていられるわね」
色は返事がないとわかりきっている空に向かって呟いた。
みんな、馬鹿ばっかりだ。自分の能力値は自分では決められない。
どんなに努力したところで、一度止まってしまえばそこが限界値なんだ。
どうしてそれが分からないんだろう。
「なあって。」
例えば、そうね。
私の斜め後ろに座っているおさげの女の子。
名前は忘れてしまったけれど、彼女は次の段階で止まってしまうわ。
努力しているようだけれど、結局は無駄になってしまうの。
「なあってば。」
そして、今私の隣で声を発している彼も返事をする相手がいないから、無駄になってしまうの。
「お前だよ。色。聞こえてんだろう。」
彼はとても不思議な方なの。私は嫌われ者だもの。声をかけるメリットがないわ。
「今回のテストどうだった。前回は負けたけど今回は絶対負けない。」
そして彼はとても頭が良いのよ。私の次位にね。
「おい、無視決めてんじゃないぞ。」
彼はクラスの中でもとても変なほうだと思うわ。
だって私に声をかけるんですもの。
「あなたって、頭はいいのにとてもお馬鹿だと思うのよね」
私は思ったことを言ってみた。
「本当に失礼な奴。褒めているのか。馬鹿にしているのか。」
ほうら、彼はとても変な顔をするもの。
みんなの顔は暗くてよく見えなのだけれど、彼の顔は、
ほほ骨が上がり、口角も上がり、目は垂れ下がっているの。
彼はとっても変だわ。
「どれどれ、うわ。また負けた、でも次は負けないからな。」
そういって彼は自分の席へ戻っていった。
どうやら、私のテストの点数を見に来ていたようね。
そんなことをしなくとも学校側で順位と点数が嫌でも発表されるのに。
「色ちゃん、今日ね祖母がおはぎを作ってくれたの。一緒に食べない。」
彼女は不思議な人の一人で、私をよくお茶に誘ってくれるの。
そして、そのお茶に一緒に誘ってくれるのが斜め後ろのおさげちゃん。
「遠慮するわ。いつもごめんなさいね。」
そしていつも断ってしまう嫌な私。
でも、彼女が恨めしくって、顔に出てしまいそうだから。
祖母がいて、家族がいて、きっと愛されて育ったんでしょう。
私には、関係ないことだわ。
(教室のドアの開ける音)
「皆さん席についていますね。それでは、明日の全国学力模試のお話をします。」
全国学力模試とは世界各国、その名の通り全国の子供たちが国のためにテストを行い競い、それにより土地や条約を決め世界の秩序を決める年に一度の国家対戦だ。
この日のために、世界中の子供たちが勉強に取り組む。
このテスト内容は国の外務省勉学科という組織の中から一番の学力を持つ人が選抜され、各国の選抜者たちと一緒に問題を決める。
「この模試では、あなた方の未来とお国の未来がかかっています。」
やるべきことはやってきましたね、きっと結果が出るはずです、
無責任なことを言いますよね。先生方は。
自分だってできるかもわからない難問をこうして子供たちに解かせ、できないものには一生の罰を与える。
出来なかった罪。それは罪といえるのか。
「色さん。期待していますよ。」
私のそばに来てそっと肩に置いたその手は、ひどく気味が悪かった。
「知ってる。喜びもしないし悲しみもしないんだから怖いわ。」
「あの人よりずっと努力しているのにね。」
学校ではうわさが飛び交う。
あの人、とは色のことだ。
色はいわゆる嫌われ者だったのだ。
「なあ。」
この世界では教育、勉強がすべてだ。
その世界の中の【日本】は2020年から××年たったいま、
教育戦争が始まったその年からシンガポールが一位を独占している。
日本はせいぜい全体値で世界7位といった所だろう。
これは決して低い位ではないが、
上位を独占している国は元大国のアメリカや中国ではなかった。
世界は教育戦争で優劣が入れ替わってしまった。
武器を作ることばかりに気を取られていた国は真っ先に最下位まで落ちていった。
そんな今の日本で生まれてから学力が伸び続け、天才と呼ばれる色だったが、
本人としてはちっぽけな学校の中での一位なんて嬉しいわけでもなく、
興味を示すにはくだらなすぎることのようだった。
「毎日、飽きもせずによくもまあ勉強をしていられるわね」
色は返事がないとわかりきっている空に向かって呟いた。
みんな、馬鹿ばっかりだ。自分の能力値は自分では決められない。
どんなに努力したところで、一度止まってしまえばそこが限界値なんだ。
どうしてそれが分からないんだろう。
「なあって。」
例えば、そうね。
私の斜め後ろに座っているおさげの女の子。
名前は忘れてしまったけれど、彼女は次の段階で止まってしまうわ。
努力しているようだけれど、結局は無駄になってしまうの。
「なあってば。」
そして、今私の隣で声を発している彼も返事をする相手がいないから、無駄になってしまうの。
「お前だよ。色。聞こえてんだろう。」
彼はとても不思議な方なの。私は嫌われ者だもの。声をかけるメリットがないわ。
「今回のテストどうだった。前回は負けたけど今回は絶対負けない。」
そして彼はとても頭が良いのよ。私の次位にね。
「おい、無視決めてんじゃないぞ。」
彼はクラスの中でもとても変なほうだと思うわ。
だって私に声をかけるんですもの。
「あなたって、頭はいいのにとてもお馬鹿だと思うのよね」
私は思ったことを言ってみた。
「本当に失礼な奴。褒めているのか。馬鹿にしているのか。」
ほうら、彼はとても変な顔をするもの。
みんなの顔は暗くてよく見えなのだけれど、彼の顔は、
ほほ骨が上がり、口角も上がり、目は垂れ下がっているの。
彼はとっても変だわ。
「どれどれ、うわ。また負けた、でも次は負けないからな。」
そういって彼は自分の席へ戻っていった。
どうやら、私のテストの点数を見に来ていたようね。
そんなことをしなくとも学校側で順位と点数が嫌でも発表されるのに。
「色ちゃん、今日ね祖母がおはぎを作ってくれたの。一緒に食べない。」
彼女は不思議な人の一人で、私をよくお茶に誘ってくれるの。
そして、そのお茶に一緒に誘ってくれるのが斜め後ろのおさげちゃん。
「遠慮するわ。いつもごめんなさいね。」
そしていつも断ってしまう嫌な私。
でも、彼女が恨めしくって、顔に出てしまいそうだから。
祖母がいて、家族がいて、きっと愛されて育ったんでしょう。
私には、関係ないことだわ。
(教室のドアの開ける音)
「皆さん席についていますね。それでは、明日の全国学力模試のお話をします。」
全国学力模試とは世界各国、その名の通り全国の子供たちが国のためにテストを行い競い、それにより土地や条約を決め世界の秩序を決める年に一度の国家対戦だ。
この日のために、世界中の子供たちが勉強に取り組む。
このテスト内容は国の外務省勉学科という組織の中から一番の学力を持つ人が選抜され、各国の選抜者たちと一緒に問題を決める。
「この模試では、あなた方の未来とお国の未来がかかっています。」
やるべきことはやってきましたね、きっと結果が出るはずです、
無責任なことを言いますよね。先生方は。
自分だってできるかもわからない難問をこうして子供たちに解かせ、できないものには一生の罰を与える。
出来なかった罪。それは罪といえるのか。
「色さん。期待していますよ。」
私のそばに来てそっと肩に置いたその手は、ひどく気味が悪かった。